【本記事は2024年9月に作成されました】
Form 8938とは
Form 8938とは、一定の金額を超える海外金融資産を持っている場合に、それを開示するためのフォームです。
類似のフォームとしてFinCEN Form 114(FBAR)があり、こちらのほうが「開示が要求される金額」が低いのですが、Form 8938を出したからといってForm 114を出さなくてもOK、ということはありません。Form 8938を出す必要のあるクライアントは、実務的にはほぼ全員がForm 114も出すことになるはずです。
🤔Form 114はあくまでもFinCENに提出する書類であって、IRSに提出するTRとは別物でしたね。
本記事では主にこちらのIRSのページを参照していますが、込み入った議論や例外、筆者が実務で遭遇しなさそうなケースについては大幅にカットしています。詳しいところまで把握したい場合は参照元を直接ご確認ください。
🤔Form番号の語呂合わせ:波及サバ読み防ぐFATCA
いつまでに出せば良い?
Form 8938は通常のTax Returnに合わせて提出する書類です。したがってTRのDue Date(延長した場合は延長後のDue Date)までに提出することになります。
※したがってその年にTRが不要な “taxpayer” は、Form 8938も提出は必要ありません。
誰が出すのか?(性質の要件)
Taxpayerが、以下に挙げる「specified person」に合致する場合に、Form 8938の提出が要求されます。
なお、specified personは、specified individualとspecified domestic entityの2種類があります。
(1) specified individual
これに該当するのは主に「アメリカ市民権者」「その課税年度の一部でも居住者だった外国人」「夫婦合算申告のために居住外国人扱いになるよう申請した非居住外国人」となります。
※居住外国人となるための要件は、green card testもしくはsubstancial presence testのいずれかを満たすことです。
なお、specified individualに該当する場合でも、その年に非居住外国人としてTRを行う場合は、期限までにForm 1040-NR、および必要であれば Form 8833(Treaty-Based Return Position Disclosure)を提出することで、Form 8938の提出が不要になります。
また、居住外国人についても類似の規定があります。
🤔あくまで本制度の趣旨は「アメリカの人が外国の口座を利用して所得を隠していることを看破すること」にあるため、居住外国人も非居住外国人もForm 8938 の提出は不要と考えられているのではないでしょうか。
(2) specified domestic entity
こちらは、主にアメリカ国内のclosely held corporationである場合に当てはまります。closely held corporationとは、会計期末においてすべての種類の株式の議決権の合計80%以上、もしくは株式総価値の80%以上を、特定の個人によって直接的or間接的or実質的に所有されている会社のことを指します。
🤔個人が節税等の目的で設立した会社や “同族会社” などに見られるのがclosely held corporationです。これは形式的には法人ですが、内実は個人と同じものであると考えられるため、specified personとしてカウントされることになるのだと思います。
※厳密にはclosely heldな国内パートナーシップ、1以上のspecified personを受益者として含む国内信託もspecified domestic entityに含まれます。
※”同族会社” とダブルクォーテーションを付したのは、日本の税制において厳密に定義された同族会社のことではなく、俗にいう同族会社のことを指しているという意味です。
なお、すべてのclosely held corporationがspecified domestic entityになるわけではなく、次のいずれかの要件も満たす必要があります:
・Gross Incomeの50%以上がpassive incomeによるものである
・資産の50%がpassive incomeを生む、あるいは生むために保有されている
ここでいうpassive incomeは、(実質的な)配当、(実質的な)利息、家賃や使用料、年金、一定の要件を満たすこれらの売却益、為替差益などを指します。
🤔つまり投資関連の所得ですね。Incomeや資産の50%が投資関連所得に繋がっているということは、それだけたくさんの元手等となる金融資産を持っている可能性がありますから、適切に Form 8938で報告してもらわないといけない、という発想なのだと思われます。
誰が出すのか?(金額の要件)
さて、もし当該taxpayerがspecified personであり、かつ下記の要件を満たしている場合は、Form 8938を提出する必要があります。
(1) アメリカ国内に住んでいるspecified individual
未婚者または夫婦別申告の場合、所有している金融資産の総額が、課税年度末日に$50,000、または課税年度内のいずれかのタイミングで$75,000を超えている場合。
既婚者で合算申告をする場合、その倍額。
🤔つまり夫婦別申告の場合はForm 8938の提出が必要であるtaxpayerでも、合算申告にすることで報告不要になるケースがあるということになります。節税効果が生じるわけではありませんが、申告の手間が省けるというメリットはありますね。
(2) アメリカ国外に住んでいるspecified individual
未婚者または夫婦別申告の場合、所有している金融資産の総額が、課税年度末日に$200,000、または課税年度内のいずれかのタイミングで$300,000を超えている場合。
既婚者で合算申告をする場合、その倍額。
なお、tax homeがアメリカ以外の国であり、かつpresence abroad testのいずれかを満たし、かついずれの例外にも当てはまらない場合に、Form 8938での報告義務があります。
presence abroad testとは「課税年度をまるまる含む継続的な1年以上、他国のbona fide(実質上の)resident であるアメリカ市民である」「課税年度内のある日までのある1年間で、最低330日間外国にいたアメリカ市民もしくは居住者」の2つを指します。
(3) specific domestic entity
所有している金融資産の総額が、課税年度末日に$50,000、または課税年度内のいずれかのタイミングで$75,000を超えている場合。
🤔「形式的には法人だが内実は個人である」という考察に従えば、国内居住のspecific individualと同じ条件・同じ金額であることは当然ですよね。
どのように金額を計算するか?
(1) 海外金融資産の場合
Fair Market Value(時価)になります。USドル以外で預金等されている場合は、USドルに換算したあとで判断します。
(2) 海外の年金プラン・遺産財団・繰延報酬プランの場合
もし時価がわからない、あるいは入手可能な情報によって時価を知る理由がない場合は、課税年度最終日に決定された「課税年度中にtaxpayerに分配された通貨その他の財産の時価」となります。
したがって、このケースにおいて分配がなかった場合は、時価はゼロということになります。
※資産価額がゼロもしくはマイナスの場合、ゼロとして扱います。
※夫婦共同で所有しているものがある場合、夫婦合算申告であれば当然全額を含めることになります。夫婦別申告で、かつ配偶者もspecified individualである場合は、総金額の半分ずつをそれぞれ夫婦のForm 8938で報告しましょう。また、夫婦別申告で、かつ配偶者がspecified individualでない場合は、全額をtaxpayerのForm 8938で報告する必要があります。
なお、外貨からUSドルに換算するときは、課税年度の末日のレートを使用します。アメリカ財務省の金融データを参照するのが原則ですが、他のレート、たとえばIRSが発表している平均為替レートを使用することも可です。
どのような資産が対象か?
Form 8938で含められるべき海外金融資産とは、次のようなものを指します:
・海外金融機関が管理している金融口座
・U.S. personでない者から発行された株式や有価証券で、投資目的で解説され、かつ金融機関によって管理されていないもの
・海外のentityにおける持ち分で、投資目的で開設され、かつ金融機関によって管理されていないもの
・発行者または取引相手がU.S. personでないような金融商品または契約で、投資目的で解説され、かつ金融機関によって管理されていないもの
当然、アメリカ国内にある金融資産については報告は不要となっています。また、アメリカのSocial Securityに相当する他国の社会保障制度に関しても報告の対象外です。
Form 8938を提出しなくても良い場合
すでにForm 8938以外のフォームで金融資産の報告をしている場合は、Form 8938の提出は免除されます。
具体的には下記のフォームが対象です:
・Form 3520(Annual Return To Report Transactions With Foreign Trusts and Receipt of Certain Foreign Gifts)
・Form 5471(Information Return of U.S. Persons With Respect to Certain Foreign Corporations)
・Form 8621(Information Return by a Shareholder of a Passive Foreign Investment Company or Qualified Electing Fund)
・Form 8865(Return of U.S. Persons With Respect to Certain Foreign Partnerships)
※ただし、Form 8938自体は添付する必要があります。Form 8938のPart Ⅳで、上記のどのフォームを使用したか、また何枚使用したかを記載することになります。
Form 8938のペナルティ
期日までに提出しなかった場合や、開示しなかった口座に起因する税額の過少申告があった場合、下記のペナルティが科せられる可能性があります:
(1) Failure-to-File Penalty
$10,000のペナルティです。なお、IRSからのレターが届いてもなお90日の間正しいForm 8938を提出しなかった場合、30日ごとに$10,000の追加ペナルティが発生します。追加ペナルティの最大金額は$50,000です。
※合算申告の場合、夫婦で「ひとり」とカウントしてペナルティの計算が行われます。
ただし、申告漏れに合理的な理由があったり、故意でなかったりした場合は、ペナルティは科されません。ただしその判断はケースバイケースで行われますので、「理由を説明すれば必ず大丈夫」というわけではありません。
(2) Accuracy-Related Penalty
開示しなかった口座に起因して税額を過少申告していた場合、その過少申告分の40%がペナルティとして科されます。また、意図的であった場合はその割合が75%となります。
(3) 刑事罰
上に述べた(1) (2)のペナルティに加えて、刑事罰の対象となる可能性もあります。
(4) その他の “ペナルティ”
もしForm 8938を提出しなかった場合、所得税申告の全部または一部について、その時効がForm 8938の提出日から3年まで延長される可能性があります。TRのDue Dateを過ぎた後にForm 8938を提出した場合は注意が必要です。
Form 8938に必要な情報
Form 8938に記入すべきデータとして、以下の情報をtaxpayerから提供してもらいましょう。
・口座名義
・口座番号
・金融機関の名前と住所
・口座がdepositか、あるいはcustodialか ※後述
・その年の最高金額、および課税年度末時点での金額
・その年のうちに当該口座を開設or閉鎖したか否か
・その口座に保管されている資産に起因するtax itemがあるか?
・その他金融資産を持っている場合、当該課税年度中に売買したか?
Form 8938代行の流れ
(1) taxpayerがspecified personに該当するか判断する。該当しないようならForm 8938は不要。
(2) 該当する場合は、夫婦合算申告か否かを確認し、所有している金融資産の額(最大金額と年末時点での金額)が基準を超えそうかどうか質問する。
(3) もし基準額をオーバーしているorオーバーするかわからない場合、上の「Form 8938に必要な情報」に挙げた情報をtaxpayerから受領する
(4) 預かった情報をExcel等で整理し、基準額をオーバーするかを確認する。オーバーしないようならForm 8938は不要。
(5) UltraTax等でForm 8938を作成する。各入力欄については後述。
(6) 完成し、クライアントの確認を経たら、Form 1040等と一緒に提出。
Form 8938の記入上の注意点
基本的には書かれているとおりに入力すれば良いのですが、以下の点は若干注意が必要です。
・line 5 and line 7(Part I)
deposit accountsとcustodial accountsの数を記入する欄です。deposit accountsとはいわゆる普通の銀行口座などであり、custodial accountsとは「ある人が別の人のために管理する、金融機関・投資信託会社・証券会社の預貯金口座」のことです。
実務的には、ごくシンプルに「銀行預金はdeposit、投信などはcustodial」くらいに考えても問題ないでしょう。
・Part V
もし2口座以上持っている場合は、このPart V以降が掲載されている2ページ目を複数用意します。また、1ページ目の上部に「If you have attached additional statements, check here」というチェックボックスと「Number of additional statements」という記入欄がありますので、忘れず記入しましょう。
・line 25
外貨(USドル以外)で保管されている口座の場合、aに「JPN – JAPANESE YEN」などと記入します。また、もしアメリカ財務省の金融データ以外のデータを換算時の為替レートとして使用した場合、それについても記載しましょう。たとえばもしIRSが公表している平均為替レートを使用した場合は「IRS – AVERAGE EXCHANGE RATE」、という感じになります。
・line 26b
GIIN(Global Intermediary Identification Number)というものを記入する欄です。optionalですので記入しなくても問題はありません。
ちなみにGIINというのは、FATCA Registration Systemによって発行された、金融機関に割り当てられているナンバーのことです。
過去のForm 8938を提出するには?
まずは延長を検討しましょう。延長申請はForm 4868を使用することで可能です。また、もし適法に過年度のForm 8938を提出したい場合は、SFOPの手続きを利用することで可能となるかもしれません。
終わりに
大変ペナルティの大きいFormですので、申告漏れはもちろんご法度ですし、不正確な情報申告にならないよう、細心の注意を払ってprepareするようにしましょう。
特に多種多様な金融資産を持っているtaxpayerの場合は、過年度のForm 8938も参照しつつ、漏れのないように申告することを心がける必要があります。

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