【この記事は2025年12月22日に作成されました】
遺産、相続及び贈与に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とアメリカ合衆国との間の条約、通称「日米相続税条約」ではどのような規定があるのかを概観します。
あくまで「どのような規定があるのか」をざっくり把握することを目的とした記事であり、詳細に立ち入る任は別記事に譲ります。
第1条
(1)と(2)にて、本条約でいう「租税」とは日本とアメリカでそれぞれ何を指すのかを規定。
第2条
(1)では「合衆国」「日本国」「租税」「権限のある当局」を定義。
(2)では定義のない語の解釈は、基本的に国の租税関連法に倣うと定義。
(3)では被相続人や贈与者と受益者が相続・贈与のタイミングで自国内に住所を有していたかor自国籍を有していたかを、自国法令で決められると規定。
第3条
(1)では課税や税額控除に関して、相続財産や贈与財産の財産や財産権の所在地について定義。
(a) 不動産や関連する権利
(b) 有体動産
(c) 債券
(d) 法人の株式や法人に対する出資
(e) 船舶と航空機
(f) のれん
(g) 特許権・実用新案権・商標権・意匠権
(h) 著作権・フランチャイズ・知的財産権の使用権
(i) 鉱業権など
(j) 漁業権
(k) ここで規定のないものについて
ただし(2)にて、(1)の規定は「この規定がなければ両国で課税されてしまうもの」にのみ適用すると規定。
🤔本条約の目的はあくまで二重課税の回避ですから、もともと二重課税の心配がないような財産にまで口出しをする意味はないですね。
第4条
「相手の国に財産があるから」という理由だけで、ある財産の相続や贈与について自国で納税義務が生じている場合について。
たとえば日本人(死亡時に日本に住所を有していた)がアメリカの不動産を有しており、それが相続財産となっている場合、その者がアメリカ国籍者や居住者であったと仮定して、特定の控除を許可する。
ただし全額認められるわけではなく、「アメリカに存する財産のうち、両国に課税されるもの」÷「その者がアメリカ国籍者や居住者で合った場合に、アメリカで課税されるすべての財産」を乗ずる。
第5条
二重課税回避のための税額控除について。国籍や住所地を理由として租税を課す場合、自国の租税から、他方の国にありかつ両国で課税対象になるものについて、他方の国で課せられる租税を控除できる。
なお、(2)では日米のどちらにも存しない財産について規定している。
(5)では申告期限から5年が経過してしまうと、そのような税額控除が使えなくなることを規定。
(6)では、最終的に片方の国で控除後の額を納税したあとでないと、もう片方で税額控除が認められないことを規定。
第6条
情報交換や徴税上の共助に関する規定。
第7条
二重課税についての納税者の異議申し立てについて。
第8条
(1)(2)において、納税者に対して不利な解釈は禁じる旨を規定。
(3)(4)においては条約の解釈や適用についての疑義の解決について。
第9条
批准・発効・有効期限について。
文字起こし(3条~5条)
実務上特に引用されそうな3条から5条の和文を文字起こししました。
※数字は適宜算用数字に置き換えています。
第3条
(1) 被相続人がその死亡の時に若しくは贈与者がその贈与の時に合衆国の国籍を有し若しくは合衆国内に住所を有していた場合、又は被相続人の遺産の受益者がその被相続人の死亡の時に若しくは贈与の受益者がその贈与の時に日本国内に住所を有していた場合には、これらの時における次に掲げる財産又は財産権の所在地は、租税の賦課及び第5条によって認められる税額控除については、もっぱら次に定めるところに従って決定されるものとする。
(a) 不動産又は不動産に関する権利(本条において他に特別の規定があるものを除く。)は、その不動産に係る土地の所在地にあるものとする。
(b) 有体動産(通貨及び発行地で法貨として認められているすべての種類の貨幣を含み、本条において他に特別の規定がある財産を除く。)は、それが現実にある場所にあるものとし、運送中である場合には、目的地にあるものとする。
(c) 債権(債券、約束手形、為替手形、銀行預金及び保険証券を含み、債券その他の流通証券で持参人払式のもの及び本条において他に特別の規定がある債権を除く。)は、債務者が居住する場所にあるものとする。
(d) 法人の株式又は法人に対する出資は、その法人が設立され、又は組織された準拠法が施行されている場所にあるものとする。
(e) 船舶及び航空機は、それらが登録されている場所にあるものとする。
(f) 営業上、事業上又は専門職業上の資産としてののれんは、その営業、事業又は専門職業が営まれている場所にあるものとする。
(g) 特許権、商標権、実用新案権及び意匠権は、それらが登録されている場所(登録されていない場合には、それらが行使される場所)にあるものとする。
(h) 著作権、地域的独占権(フランチャイズ)、芸術上又は学術上の著作物に対する権利及び著作権のある著作物、芸術上若しくは学術上の著作物、特許発明、商標、実用新案若しくは意匠を使用する権利又はこれらの使用を許諾された地位は、それらを行使することができる場所にあるものとする。
(i) 鉱業権若しくは租鉱権又は採石権は、採掘又は採石が行われる場所にあるものとする。
(j) 漁業権は、その権利の行使について管轄権を有する国にあるものとする。
(k) 前各号に規定されていない財産は、いずれか一方の締約国が自国内に財産があることのみを理由として租税を課する場合には、その締約国の法令で定めている場所にあるものとし、また、いずれの締約国も自国内に財産があることのみを理由として租税を課するのではない場合には、各締約国の法令で定めている場所にあるものとする。
(2) 本条(1)の規定は、特定の財産及びその一部分で同項の規定がなければ両締約国によって租税が課せられるもの(諸控除がなければ租税が課せられることとなるものを含む。)についてのみ、適用する。
第4条
被相続人がその死亡の時に若しくは贈与者がその贈与の時に合衆国の国籍を有し若しくは合衆国内に住所を有していた場合、又は被相続人の遺産の受益者がその被相続人の死亡の時に若しくは贈与の受益者がその贈与の時に日本国内に住所を有していた場合において、一方の締約国が自国内に財産があることのみを理由として租税を課するときは、その租税を課する締約国は、
(a) 当該被相続人、贈与者又は受益者に対し、その者が自国の国籍を有していたとするか又は自国内に住所を有していたとすれば自国の法令に基いて認められることとなる特定の控除を、当該控除の額に
(A) 第三条の規定により自国内にあるとされる財産で両締約国によつて租税を課せられるもの(諸控除がなければ租税を課せられることとなるものを含む。)の価格の
(B) その被相続人、贈与者又は受益者が自国の国籍を有していたとするか又は自国内に住所を有していたとすれば自国の租税を課することとなる財産の全部の価格
に対する割合を乗じて得た額を下らない額により、行うものとし、また、
(b) 租税の額を決定するに際しては、本条(a)の規定を適用する場合及び別に定められている他の比例控除を行う場合を除く外、第三条の規定により自国外にあるとされる財産については、課税価格の計算上考慮しないものとする。
第5条
(1) いずれの一方の締約国も、被相続人、贈与者、被相続人の遺産の受益者又は贈与の受益者が自国の国籍を有し、又は自国内に住所を有していることを理由として租税を課する場合には、自国の租税(本条の規定を適用しないで計算したもの)から、相続又は贈与の時に他方の締約国内にある財産で両締約国によつて租税の対象とされるものについて当該他方の締約国が課する租税を控除するものとする。但し、その税額控除の額は、控除を行う締約国が課する租税のうち前記の財産に帰せられる部分をこえないものとする。 本項の規定は、本条(2)に掲げる財産については適用しない。
(2) 相続又は贈与の時に両締約国外にある財産(又は各締約国が自国の領域内にあるとする財産、一締約国がいずれか一方の締約国内にあるとし、且つ、他方の締約国が両締約国外にあるとする財産若しくは各締約国が他方の締約国内にあるとする財産)について各締約国が被相続人、贈与者又は受益者が自国の国籍を有し、又は自国内に住所を有していることを理由として租税を課する場合には、各締約国は、自国の租税(本条の規定を適用しないで計算したもの)から、他方の締約国が課する租税で当該財産に帰せられるものの一部を控除するものとする。 本項の規定によつて各締約国が行う税額控除の額の合計額は、各締約国が当該財産について課する租税の額のうちいずれか少い方の額に等しいものとし、且つ、当該財産について各締約国が課する租税の額に比例して両締約国間に配分されるものとする。
(3) 本条の規定によつて認められる税額控除を行う場合には、その控除は、控除を行う締約国の法令によつて認められる同一の租税の税額控除に代わるものとし、個個の場合に行う税額控除は、本条の規定によつて認められる税額控除又はその締約国の法令によつて認められる税額控除のうちいずれか多額のものとする。 本条の規定の適用上、特定の財産に帰せられる各締約国の租税の額は、その財産につき課せられる租税に関して行うすべての軽減又は控除(本条(1)及び(2)の規定による税額控除を除く。)を計算に入れた後に確定されるものとする。 なお、この条約に基いて税額控除を行う締約国といずれかの第三国との間の他の条約又は税額控除を行う締約国の法令によつて同一の財産についてその第三国の租税の税額控除が別に認められる場合には、これらの税額控除の額の合計額は、控除を行う締約国の租税でこれらの税額控除を行わないで計算したもののうちその財産に帰せられるものの額をこえてはならない。
(4) 本条の規定による一方の締約国の租税からの他方の締約国の租税の控除は、両締約国の租税が被相続人の死亡の時又は贈与の時に同時に課せられる場合にのみ行うものとする。
(5) 本条の規定による税額控除は、控除を行う締約国の租税の申告期限から五年を経過した後においては行わない。 但し、その税額控除の請求が前記の5年の期間内に行われた場合は、この限りでない。 本条の規定の適用によつて還付する租税には、税額控除を行う締約国が別に認めている場合を除く外、利子を付けない。
(6) 一方の締約国の租税からの他方の締約国の租税の控除は、当該他方の締約国の租税(本条の規定によつて認められる税額控除があるときは、その控除後の額)が納付されるまでは、最終的には認められない。

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