【この記事は2025年6月11日に作成されました】
本記事の目指すところ
本記事ではForm 2555とForm 1116を扱いますが、最終的なゴールは「居住者のtaxpayerが日本等の海外から勤労所得を得ている場合、どのように申告をするのが正解か見極められるようになる」ことです。
したがって、各Formについての網羅的な解説とはなっていません。ご了承のうえお読みください。
結論:2555と1116の簡単な使い分け
(1) 勤労所得ではなく受動所得に対して適用しようとしていますか?
→もしYESなら2555は使えません。Foreign Earned Income Exclusionだからです。
(2) 当該勤労所得に対し、日本での納税額がゼロまたは僅少ですか?
→もしYESなら1116は効果がゼロまたは微小でしょう。2555を検討します。
※ただし住民税も「所得を標準として計算される税金」のため、1116においてForeign Taxとして控除の対象になります。納税額が理由で1116のインパクトが薄そうな顧客であっても、1月1日時点で日本に住んでいるならば住民税を払っている可能性があるため、ヒアリングしてみると良いかもしれません。
(3) 課税年の間ずっとアメリカに住んでおり、かつ近々日本に帰国する見込みもなしですか?
→もしYESなら2555は使えません。Bona Fide Residence TestもPhysical Presence Testも満たさないと思われるためです。
(4) お子様の人数が多い等の理由で、Child Tax Creditの還付部分(Additional Child Tax Credit)を受け取れそうですか?
→もしYESなら、2555はあまり良くない選択肢かもしれません。Form 2555とAdditional Child Tax Creditは両立できないためです。
(5) 当該勤労所得は$126,500以上ですか?(2024年度の場合)
→もしYESなら2555だけでは引ききれませんので1116の併用を検討しましょう。詳細は後述。
🤔1,500万~2,000万円くらいまでは2555で引ききれる、という感覚を養っておくと良いでしょう。
Form 2555について
Form 2555は、海外で勤労所得がある場合、一定金額までその金額をtax returnにおける所得金額から除外(exclude)するためのFormです。以下、Foreign Earned Income Exclusionは FEIEと略記します。
🤔FEIEは「国外所得免除方式」と呼ばれるタイプの二重課税除去方法です。これに対してForeign Tax Creditのような二重課税除去方法を「外国税額控除方式」と言います。実は、これら二つを併せ持っているのは当たり前のことではなく、たとえば日本は国外所得免除方式に相当するスキームを持ちません。
Form 2555を提出できる者
🤔容易に想像できますが、海外で稼得した勤労所得を除外することの目的としては、当該所得に対して「働いた場所での課税」と「アメリカ側のtax returnによる全世界所得への課税」の二重課税が生じてしまう事態を避けることにありそうですね。
ということは、アメリカ側で全世界所得に課税されるtaxpayer、つまり居住者がForm 2555であることが条件になりそうです。
以下、その予想に基づき読んでいきましょう。
Form 2555を提出する資格がある者は、以下のふたつのテストをどちらも満たすtaxpayerとなります。
1.Tax home testをクリアしている
2.Bona fide residence testまたはphysical presence testをクリアしている
Tax home testは、その者のtax homeが2のいずれかのtestの期間中(そのtaxpayerが使うほう)外国にあるかどうかを考えるものです。
このtax homeは、ビジネス・雇用・部署を行う通常のあるいは主たる場所(それらがなければ通常住んでいる場所)を指します。家があるからといってこのtestをクリアするとは限りません。
Bona fide residence testをクリアするには、下記のいずれかを満たす必要があります:
・課税年を完全に含む期間、連続して外国のbona fide residentであるアメリカ市民である
・アメリカの居住者であるが外国の国籍を有し、課税年を完全に含む期間、連続してその国のbona fide residentである。ただし当該外国はアメリカと租税条約を交わしている必要がある。
※日本は対象国ですのでご安心ください。
Bona fide residentであるか否かは、滞在期間と滞在内容に関するその者の意向によって判断されます。たとえば外国に有期で訪れるに過ぎず、仕事や任務が終わったらアメリカに帰る予定であれば、その国のbona fide residentとはなりません。
他方、physical presence testをクリアするには、その名のとおり物理的に外国等に丸々330日以上(継続する12か月の間で)滞在しなくてはいけません。ここでいう丸々(full days)とは、真夜中0時から始まる24時間の期間のことをいいます。
※非居住外国人のうち、アメリカ市民や居住外国人の配偶者がおり、かつ居住者として課税されることを選んだ者は、このテストを満たすとみなされます。
Form 2555の効果
FEIEの対象となる稼得は、wage, salary, professional feeやその他外国で提供した役務に起因する支払いのことを指します。逆に、実質的には会社の儲けや利益を分配しているだけのものは、FEIEによって控除できません。
また、年金からの所得も含みません。
Form 1116について
Form 1116はForeign Tax Credit(以下FTC)に関するものです。これを作成することによって、海外で支払った税金をアメリカ側で税額控除できます。
🤔そもそも居住者は全世界所得が申告対象ですね。ということは、たとえば日本で勤労所得があるtaxpayerであれば、その所得についてはアメリカと日本の両方で課税されてしまうことになります。かような事態を避け、taxpayerの税負担を軽減するのが本制度の目的です。
ですが、FTCはtaxpayerへの優しさだけで定められている制度ではありません。National Foreign Trade Councilによれば、FTCはアメリカ企業の取引や輸出の競争力を確保することもまたポイントであるとされています。確かに二重課税されてしまうようでは、わざわざ海外に出ていこうとは思えず、企業はアメリカ国内に留まってしまい、国際競争力は失われてしまいますよね。
なお、実際に払った税金の額が控除対象です。「源泉徴収された額」「いったん納税したが還付された額」などはカウントしてはいけません。
発展:1116なしにFTCを適用
実はElectionをすることによって、$300(MFJは$600)までのforeign taxをForm 1116なしに控除できる、つまり直接Sch.3に記載するだけでOKなのです。
そのための条件は以下のとおりで、すべて満たす必要があります。
・すべての海外からの所得がpassive category income(つまり利子配当等)
・その所得と外国税がすべてqualified payee statementに記載されている(1099-DIV, 1099-INT, K-1, K-3等)
・当該外国税が$300(MFJは$600)を超えない
なお、carry overができない・このelectionをすると1116を提出できなくなる等、いくつか注意点がありますので、instructionをよく読みましょう。
🤔少額の海外金融資産を持っているだけで1116を提出しなくてはいけないというのは納税者側の手間が増えてしまいますし、IRSとしても$300の追徴のためにわざわざ1116を隅々まで確認したくはないのでしょうね。
2555と1116の併用について
日本での勤労所得が$126,500を超えている場合、FTCの併用も検討しましょう。ただし、その際の「日本に払った税額」の計算には注意が必要です。
例:日本での勤労所得が$189,750。これに対して所得税を$60,000払っている。
→2555と1116を併用する場合は、次のようなイメージになります。
(1) まず2555で勤労所得と減らす($189,750 – $126,500 = $63,250)
(2) $63,250に相当する所得税額を計算する(60k × (63,250 ÷189,750) = 20k)
こうして計算された$20,000がFTCの対象となる「日本に支払った所得税」となります。
🤔当たり前といえば当たり前ですよね。FEIEによって$126,500までの日本勤労所得を「なかったこと」にできるのですから、その部分に対して支払った外国所得税もまた「なかったこと」になるのが自然です。
最後に
日本に住むアメリカ永住権者やアメリカ市民にとって、Form 2555や1116はトップクラスに頻出のFormです。最終的にゼロ申告になることも多いと思いますが、気を抜かずに正確に処理しましょう。
なお、Form 1116はTCJAによってGILTIなども関連してくるようになってしまいました。国際税務に携わるスタッフにとっては、単なる「日本の所得税や住民税を控除するだけのシンプルなForm」以上の意味を持つものですので、本記事に記載されていることだけで満足せず、ご自身で調査・実践を重ねていってください。

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