【この記事は2025年2月9日に作成されました】
Form 8995について
Form 8995とは、Qualified Business Income(以下QBI; 適格事業所得)の所得控除を計算するためのFormです。個人のtaxpayer・一部の信託・遺産財団は、これを提出することにより、QBIのうち20%分の所得控除を受けられる可能性があります。
なお、この所得控除はQBID(QBI deduction)と呼ばれたり、199A deduction(Section 199Aで規定されているため)と呼ばれたりします。本記事ではさしあたりQBI deductionで統一していますが、199A deductionと書かれていた場合もピンと来るようにしておきましょう。
元記事となるinstructionはこちらです。
QBI deductionの趣旨
この規定を理解するには、2017年に施行されたTax Cuts and Jobs Act(TCJA)からスタートするのが良いでしょう。当時のトランプ大統領によって施行されたこの法令は、以下の4つを目的とされました(参考記事):
- 中間所得層の家庭への減税
- 個人所得税のシンプル化
- 法人所得税の減税および国内投資の増加による経済成長
- 海外での稼得をアメリカ本国に回帰
さて、3つ目の「法人所得税の減税」が、今回のQBI deductionに関わってきます。
TCJAの施行により法人所得税が最大35%から一律21%に減ったため、アメリカ国内企業には非常に大きな恩恵がもたらされました。
しかし、この法人所得税はその名のとおり法人に対して課せられるものですので、法人単位では課税されず個人単位でのみ課税されるような事業体、つまりS Corp・パートナーシップ・個人事業には、この大減税の恩恵がありません。
これはいわば「C Corpという事業体のスタイルを採用すべし」という実質的な圧力となってしまい、事業体の選択の自由を制限することに繋がってしまいます。
これを防止するためにはS Corp・パートナーシップ・個人事業に対しても何らかの恩恵を与える必要があり、それこそがQBI deductionなのです。
QBIとは
QBIは「The net amount of qualified items of income, gain, deduction, and loss from any qualified trades or businesses that are effectively connected with the conduct of a trade or business in the United States. 」と定義されます。つまり「アメリカ国内での取引やビジネス行為に効果的に繋がっている取引やビジネスに起因する、条件を満たす収支たちの差引合計金額」ということです。
🤔アメリカ国外での収支が対象外になっているのは、TCJAの趣旨からして当然ですね。TCJAの目的の4つ目からもわかるとおり、TCJAはあくまでアメリカの経済的成長等を目指したものですから、海外にまで恩恵がもたらされるはずがありません。
具体的には、S Corp・パートナーシップ(Publicly Traded Partnership; PTPを除く)・個人事業・特定の遺産財団や信託からの所得がこれにあたります。
また、精算されないパートナーシップの費用・事業上の利子費用・個人事業税の所得控除可能部分・個人事業の健康保険控除・適格な退職プランへの積立などもQBIに含まれます。
🤔QBIは「Income」という名前がついていますが、定義上はnet amountなので、費用や所得控除もQBIの一部になるのですね。また、C Corpの場合も費用や所得控除を引いた金額がnet amountとなり、そこに調整が加えられたあとで税率21%がかけられるわけですから、QBIにおいても費用や所得控除が考慮されるべきというのは当然です。
他方、QBIには以下が含まれません:
・そもそも適切に所得に含まれないもの
・アメリカ国内の取引やビジネスに繋がっていないもの
以下もまたQBIの対象外です:
・S Corpからreasonableな支払いとして受け取った金額
・「保証された支払い」として受け取った金額
・パートナーとしての範囲を超えたサービスの対価として受け取った金額
・給与(Form W-2のbox 13で「Statutory Employee」にチェックが入っている場合は除く)
※Statutory Employeeとは、その会社ないしビジネスのために働いているが、雇用主に給与からの所得税の源泉徴収が義務付けられていないような “被雇用者” のことです。
🤔これらは税法上、実質的には給与と同じような性質を持つものとして扱われます。詳細は本記事では割愛しますので各自調べてみてください。
※非常に細かいポイントですが、「以前に被雇用者として働いていたが、独立などして現在は被雇用者ではない形で企業のために働いている」というケースにおいては、被雇用者でなくなってから3年間は、Sec 199Aに関しては『被雇用者として役務を提供している』とみなされます。
また、以下もQBIには含まれません:
・IRCにおいてCapital Gain, Capital Lossとして扱われるもの
・配当、および配当と同等のもの
・取引やビジネスに適切に按分されない利子収入
・コモディティ取引による収支
・外貨による収支
・NPC(Notional Principal Contract; 想定元本契約)
・取引やビジネスに繋がっていない年金
・適格なREITの配当
・適格なPTPの所得
🤔長期キャピタルゲインや配当はそもそも税率が低いので、恩恵を与えるまでもないですよね。
QBIに該当するか否かを見極めるのに苦労する場合は、元記事のinstructionにあるQBI Flow Chartを使ってみてください。
誰がForm 8995を使えるか?
Form 8995を使用できるのは、以下の3つの条件をすべて満たすtaxpayerになります。もしこれらに該当しないがQBI deductionを利用したい場合は、より詳細な計算を記入できるForm 8995-Aを利用してください。Form 8995-Aについては本記事では割愛します。
- QBI、適格なREITの配当、適格なPTPからの収支がある
※適格なREITの配当、適格なPTPからの収支については、本記事では割愛します。 - その年のQBI deduction適用前の課税所得が、夫婦合算申告であれば$383,900、それ以外であれば$191,950以下である(いずれも2024年の数値)
- 特定の農業あるいは園芸組合の出資者ではない
※2の金額をオーバーすると、QBI decuctionの上限額に新しいルールが追加されます。Form 8995-Aの範囲になるため深くは扱いませんが、その場合は当該事業のForm W-2の給与総額、当該事業における持分割合、当該事業で使用される適格資産の取得価額などの情報が必要になってくるという点のみ、頭の片隅に入れておいてください。
なお、パススルー事業体の持分を持っているtaxpayerの場合、Sec 469のMaterial Participationという規定が存在しますが、QBI deductionにおいては当該規定はまったく考慮する必要がありません。
🤔TCJAやQBI deductionの趣旨を考えると、経営や事業に実際に参加しているかどうかは別に関係ないですよね。
また、賃貸不動産の所有もここでいう「取引やビジネス」に該当する可能性があります。Rev. Proc. 2019-38によれば、Safe Harborを満たすことで、その賃貸不動産活動はひとつの「取引やビジネス」に該当し,Sec 199Aの適用を受けられるようです。
このSafe Harborが適用されるための条件は以下のとおりです:
- 賃貸物件ごとに分けて、帳簿や記録が保管されている
- その活動が存在している期間が4年未満の場合、1年のうち250時間以上がその賃貸不動産活動に使われている。4年以上存在している場合は、ひと続きの5課税年度のうち任意の3課税年度において、その条件が満たされている
- 現在の記録等があり、それらに「誰が・何月何日・何時間・どのようなサービスを提供したか」が含まれている
- 期日以内に、詳細文書を添付したタックスリターンを提出する
なお、これらを満たさなかったとしても、Sec 162の「取引やビジネス」に該当するのであれば、QBI deductionを使うことができます。
Sec 162における「取引やビジネス」とは、Commissioner v. Groetzinger, 480 U.S. 23 (1987)において「at, to be engaged in a trade or business, the taxpayer must be involved in the activity with continuity and regularity, and that the taxpayer’s primary purpose for engaging in the activity must be for income or profit.」と定義されているとおり、継続的・定期的に活動に参加しており、その活動の主たる目的が所得や利益であるものを指します。
🤔実際に詳細な活動ログを保管するのはtaxpayerによっては大変な手間ですので、実務上はSec 162を適用して済ませてしまう方がラクかもしれません。
SSTBについて
SSTB(Specified Service Trade or Business)とは、専門的サービスを提供している取引やビジネスのことです。
具体的には、医療・法律・会計・保険数理・芸術・コンサルティング・スポーツ・財務サービス・ブローカー・投資関係・有価証券等のトレードなどを提供しているものを指します。
Form 8995-Aの範疇となるため本記事にて詳しくは扱いませんが、QBI deduction適用前の課税所得の金額に応じて、QBI deductionの控除可能額が逓減していき、一定ラインを超えるとQBI deductionをまったく適用できなくなります。
🤔詳細な計算は税務ソフトウェアに任せれば良いと思いますが、SSTBの場合は扱いに注意するということを覚えておきましょう。「自分の手計算でざっくり税額を算出する」というようなケースにおいて、計算結果に影響する可能性があります。
Form 8995の入力について
以下、実際にFormに入力するうえでの留意点を記載します:
1行目の「Trade, business, or aggregation name」には、その名のとおり取引やビジネスの名前を入力すればOKです。ただしAggregation(合算)を選ぶ場合は、そのグループの名前を入力するとともに、Form 8995-A Schedule Bを申告時に添付する必要があります。
基本的には取引やビジネスは一つひとつを分けて考える必要があるのですが、以下の条件を満たすときは、まとめてひとつとして扱うことができ、それをAggregationといいます:
- taxpayer本人もしくはグループの誰かが、直接あるいは間接的に、課税年度中の過半期間(年度末の日を含む必要あり)、その取引やビジネスの持分の50%を所有しており、かつすべての取引やビジネス同じ課税年度を採用している
- SSTBがひとつも含まれていない
- 次のうち2つ以上の条件を満たす:
- 同じ、あるいは通常一緒に提供されるような製品・資産・役務を提供している
- 施設もしくは中心的ビジネス要素(人事・会計・法律・製造・購買・人材・ITなど)を共有している
- グループ内のひとつ以上のビジネスと一緒に稼働しているか、依存している
🤔Aggregationのメリットとしては、控除制限規定において、給与総額や適格資産の取得価額を合算できるという点があります。というのも、aggregationをしなかった場合、損失が生じている事業における給与額や適格資産の取得価額は計算に入れられなくなってしまうからです。……とはいえ、この控除制限規定はForm 8995が扱える課税所得の範囲においては適用されませんので、Form 8995だけしか使わないのであれば、aggregationするメリットはないかもしれません。
2行目にはそのビジネスのEINを入力することになりますが、もしない場合はtaxpayerのSSN・ITINでも問題ありません。
また、5以上のビジネスがある場合は詳細文書(Statement)を添付しましょう。
3行目には前年度から繰り越したnet lossを入力します。もし前年度中に消滅してしまい、今年度は申告に含めないビジネスがあったとしても、繰り越したlossから当該ビジネス分を差し引く必要はありません。
最後に
税務ソフトウェアにもよりますが、基本的にはSchedule C(個人事業の場合)さえ入力してしまえば、Form 8995は自動生成されることが多いでしょう。したがって、中身を知らないままでも作成自体はできてしまうかもしれません。
しかし、税額控除(credit)ではなく所得控除(deduction)であるとはいえ、20%の控除はインパクトが大きいと思われます。QBI deductionについて正しく理解しておらず、taxpayerに質問された際にうまく答えられなかった場合、「よくわからないが影響が大きい控除があるというのは不安だな」と感じさせてしまうかもしれません。
本記事では少々細かい部分まで触れてしまいましたが、まずはおおまかな部分だけでも理解し、いつでもtaxpayerに説明できるようになりましょう。

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